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それはドア一枚
約束の日、それは、週末の雨の日だった。
私たちは、ホテルを後にして街に出た。
ただ一つ、私の気持ちが落ち着かなかったのは、
誰にも気付かれたくない下着をスーツの下に隠し着ていたことだった。
そんな私の不安をよそに、Hと私は夕食を共にし、世間話をした。
Hは、先日の夜のことが嘘だったかのように、私に敬語を使い、気を遣った。
それが、後でどうなるかは、この時私は想像もしていなかった。
雨の中、私たちはホテルに戻った。
傘を畳み、スーツの水滴を払い、フロントでキーを受け取り、客室階に向かうため、エレベータに乗った。
私の想像は、二人きりのエレベータという密室で、彼が服の上からでも
触ったりするのではないかということであったが、それは出掛けるときも、
この戻るときにも起きなかった。どうやら、私の取り越し苦労か妄想だったようだ。
エレベータを降り、部屋の前に行きルームキーを回す。
キーを壁のセット位置に差すと照明が点く。よく見慣れたビジネスホテルのシステムだ。
そして、ドアが閉じたその時だった。
Hは清美の背後から突然胸を鷲掴みにした。
「清美、わかってるよな?
このドアを閉めた瞬間、俺の女だってことを。」
揉みしだかれながら、清美は頷いた。
そして、Hに命じられるまま、スーツとYシャツを脱ぎハンガーにかけた。
「それらしい姿になったな。
今日も、うんと可愛がってやるよ。」
ドア1枚の内と外では、Hは全くの別人のようだった。
そして、ドア1枚の内外で、清美は男と女の境界を越える。
Hの企みはベールに包まれたまま、Hと私の二度目の夜が始まる。
それは、冷たい雨の降る夜のことであった。
続く